cafe レイン
「丸山さん、もう帰りますか」
『え。いや、少しだけ仕込みをしようかと思っていたのでまだ店です』
「わかりました」
そう答えると私は通話を終わらせて、駅に向かっていた足をUターンさせる。
何を言うかなんてまとまらないし、どうすればいいかなんてわからない。
急に好きだって言われたら困惑してしまうかもしれない。
お客さんとオーナーだから無理って言われるなら、それでもいい。それがわかっていて告白するんだ。
走って私は目的地へと向かう。
「はあっ、はあ」
久しぶりに全速力で走ったから苦しい。それでも、一分一秒でも早く丸山さんに会いたかった。
電気の点いたcafe レイン。
呼吸を整えてから私はその扉を開けた。
カランっと鐘の音がして、一歩足を踏み入れればコーヒーのいい香りが店内を漂っていた。
カウンターには見慣れたオーナーの、丸山さんの姿。
ふわふわしている髪の毛。黒ぶちメガネ。モスグリーン色したエプロン。
「……小野寺さん」
消えそうな小さな声でつぶやくと手に持ったケイタイをカウンターに置き、丸山さんが立ち上がった。
「小野寺、スペシャル。今日食べ損ねたなって思って」
私がそう言うと丸山さんはキョトンとした顔をすると、ははって声を出して笑った。
「そうだった。君に食べて欲しかったのに。食べてくれなかった」
「あまりに忙しそうだったので。ごめんなさい」
「あー、まあ。はは」
困ったように笑うと丸山さんがカウンターに座るように促す。私も黙って目の前に座った。