cafe レイン
「今日、来てくれるかなってちょっと思ってたんですよね」
そう言いながら丸山さんはコーヒーミルを手にして豆を挽き始める。
「だから俺、一席だけ空けてたのにお友達と来たから案内しそびれちゃった」
「えっ」
信じられないといった感じで、まじまじと丸山さんを見る。丸山さんはそんな私の様子に苦笑した。
「いや、ごめん。女々しいな、俺。だから小野寺さんに避けられるんだよね」
「……」
一週間、お店に行かなかったことをさしているのだろう。何も言えなくて口を噤む。俯いている私に丸山さんは続けた。
「ちゃんと話そうって思っていたんだけどさ」
「はい」
「あの時は本当にごめん。突然キスなんてして」
突然の言葉にカアッと一気に顔に熱が集まる。首を振ることしかできない。
「我忘れてたっていうか。花じゃなくて、家にいたのが小野寺さんだったなんて思わなくておかしくなったっていうか。俺、変なことしてなかった……よね。ほんっと前日すっごい飲んでほぼほぼ記憶なかったんだけど、小野寺さんに会った夢だけは覚えていて。夢にまで見るなんてヤバいな俺、とか思ってさ」
しどろもどろに言う丸山さん。そんな丸山さんに私はひとつ、問いかける。
「丸山さんは。私がいて嬉しかったんですか」
「えっ」
「その時。会いたかったって言ってくれました。私に会いたかったんですか」
「……待って、俺そんなこと言ったんです? いつ。記憶ない」
あの時のことは全く覚えていないようで、丸山さんは動揺している。だけど、心なしか顔が赤い。
慌てているから私は声のトーンを落として尋ねた。
「嘘だったんですか」
「嘘じゃない!」
すぐさま否定の言葉が飛んできて面食らった。言ってから丸山さんはやってしまったって顔をしながらも、ぽつりぽつりと話し出す。