cafe レイン
「ヤケ、酒だったんですよ。せっかく仲良くなれたって思ったのに、何故か出かけた日から連絡もないし、電話にも出ないし。店にも来ないし。お酒弱いのにあの日はもう自暴自棄でした。小野寺さんとほら、カウンターに来てくれた男の人。あの人と二人で歩く姿を見てしまったんで」
「え。沖くんと」
二人で飲みに行っているところを見られているとは思わなかった。でも、そうか。仕事終わりと丸山さんの帰る時間が被ったら見られることはあるかもしれない。
でも、それでどうしてヤケ酒になるんだ。
「そう。彼、すごくスマートだったし、俺よりもよほどお似合いでしたよ。ほら、俺平気で女性から幻滅されるようなことするし。やっぱ居酒屋ダメだったかなって落ち込みました。喜んでくれてたのになーって。でも、彼と行ったのは居酒屋だったんで、ああ、俺が嫌だったんだなって確信してしまって飲み過ぎました」
「……」
私は黙って丸山さんの話を聞きながら、心臓辺りを抑える。うるさく鳴る鼓動をどうにか止めたかった。苦しい。
「俺、幻滅させすぎ。イケメンカフェ特集とか出ちゃったし。あ、見てないですよね?」
「あ、えっと」
気まずそうに視線を逸らすと、丸山さんはあちゃーって顔をした。
「あー、やっば。恥ずかしい。小野寺さんにお客さんから連絡先聞かれるの嫌だって豪語したくせに、そんなミーハーな企画受けちゃうんだって思われたら嫌だなって思ってたのに。でも、どうしても小野寺スペシャルは宣伝したくて、いろんな人に食べて欲しかったんで」
しゅんっとしながら言う丸山さん。
「幸せそうに食べる小野寺さん見たら、絶対うまくいくって思ったから」
「そんなに幸せそうでしたか」
「ええ。とっても」
あの時のことを思い出しているのか、丸山さんはにっこりととてもいい笑顔を見せる。
「丸山さん、あの」
「ん?」
彼が優しい声で返事をする。
「私、謝らなければならないんです」
「え。何を」
全くわかっていないのか、丸山さんは眉間に皺を寄せ思考を巡らせている。