cafe レイン

「丸山さん!?」

びっくりして近付くと腕をぐいっと引っ張られ、背中に彼の腕が回った。抱き締められていると理解するのに少し時間がかかった。
呼吸が荒い。走って戻って来たのかもしれない。

「ごめん」

耳元でぽつりと独白するように言う丸山さんに、私はふふっと笑みを零す。

「丸山さんは謝ってばかりですね」

「だって、俺が悪い」

「私はなんとも思っていません」

百パーセント気にしていないと言えば嘘になるけど、それでも丸山さんはちゃんと花さんに話をしてくれた。しっかりと断ってくれた。
彼女を一人で帰すことも出来ただろうけど、それをしなかったのは丸山さんが優しいからだ。

「あ~……、ほんっとうに君って子は」

ぎゅうっと痛いぐらいに強く私のことを抱き締める。

「花を送った後、部屋に小野寺さんがいなかったらどうしようって不安になって、早く帰りたくて久しぶりにすげえ走った。だから、帰ってきて君の姿を見つけて力が抜けちゃった」

それから、ははっと笑った丸山さん。

「俺、言葉が足りないってまじで思うから。きっとこれから小野寺さんのこと、不安にさせることあるかもしれない。でも、そうさせないようにする。何かあったらいつでも言って欲しい。言わなきゃわからない。察してとかきっと俺、無理だから」

「うん、わかりました」

恋愛映画を見て寝ちゃうような彼だ。素直なんだと思う。悪気があるわけじゃないんだ。
きっと付き合っていったら不安になること、たくさんあると思うけどちゃんと彼に伝えよう。

「他の男のとこいくとか、本当になし」

「行きません」

「大好きだよ、小野寺さん」

「私もです」

丸山さんは私の後頭部に手をやると、少しだけ体を離す。至近距離で彼と視線が絡む。
ふ、と彼が微笑んだ。
< 122 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop