cafe レイン
「丸山さん!?」
びっくりして近付くと腕をぐいっと引っ張られ、背中に彼の腕が回った。抱き締められていると理解するのに少し時間がかかった。
呼吸が荒い。走って戻って来たのかもしれない。
「ごめん」
耳元でぽつりと独白するように言う丸山さんに、私はふふっと笑みを零す。
「丸山さんは謝ってばかりですね」
「だって、俺が悪い」
「私はなんとも思っていません」
百パーセント気にしていないと言えば嘘になるけど、それでも丸山さんはちゃんと花さんに話をしてくれた。しっかりと断ってくれた。
彼女を一人で帰すことも出来ただろうけど、それをしなかったのは丸山さんが優しいからだ。
「あ~……、ほんっとうに君って子は」
ぎゅうっと痛いぐらいに強く私のことを抱き締める。
「花を送った後、部屋に小野寺さんがいなかったらどうしようって不安になって、早く帰りたくて久しぶりにすげえ走った。だから、帰ってきて君の姿を見つけて力が抜けちゃった」
それから、ははっと笑った丸山さん。
「俺、言葉が足りないってまじで思うから。きっとこれから小野寺さんのこと、不安にさせることあるかもしれない。でも、そうさせないようにする。何かあったらいつでも言って欲しい。言わなきゃわからない。察してとかきっと俺、無理だから」
「うん、わかりました」
恋愛映画を見て寝ちゃうような彼だ。素直なんだと思う。悪気があるわけじゃないんだ。
きっと付き合っていったら不安になること、たくさんあると思うけどちゃんと彼に伝えよう。
「他の男のとこいくとか、本当になし」
「行きません」
「大好きだよ、小野寺さん」
「私もです」
丸山さんは私の後頭部に手をやると、少しだけ体を離す。至近距離で彼と視線が絡む。
ふ、と彼が微笑んだ。