cafe レイン
「楓、何笑ってんだよ」
じとーっと見つめられて、ハッとして私は慌てて口を噤む。
何か言おうとした丸山さんより先に彼が私に向かって話し出した。
「俺、蒼汰っていうんでこれからよろしくお願いします」
にっこりと笑って言う彼に、抗議するように丸山さんが口を挟む。
「いや、待て。下の名前である必要があるか? 三浦だから。楓。蒼汰は忘れていいから。三浦な」
何度も念を押すように言う丸山さん。
「まるさん、ひでえ」
そう言いながらも三浦くんは楽しそうにしていた。
「ほら、もうあがっていいから。彼女んとこ行くんだろ」
「まじですか。やった。早く帰れるのは彼女さんのおかげだな。それじゃあがります」
弾んだ声を出すとエプロンを解き、脱いでから帰り支度をしてあっという間に帰っていった。
彼が出て行った後、しんっと静まり返る店内。
私はカウンターへと座り、「三浦くんと仲良しですね」と言った。
それに苦虫を?み潰したような顔を見せる丸山さん。
「大人をからかって楽しんでやがるんだよ」
「丸山さんも楽しそうでしたよ」
「どこが」
憎まれ口を叩いているけど、本気で嫌そうには聞こえないから、彼のことをちゃんと信頼していて大事に思っているってことが伝わった。
「それはそうと」
そう言いながら私の右手で私の両頬を掴む。
「俺の家で待っているんじゃないですかー」
「だって」
ほっぺをぷにぷにとされ、「ふ、変な顔」と丸山さんは笑った。