cafe レイン
「まじですか……」
そう呟いてから、沖くんはぐいっとビールを飲み干すと店員さんを呼び止め、ビールを注文していた。
「オーナーの説明はそれぐらいでいいでしょ。それで、本題は?」
中々進まない話に痺れを切らした律ちゃんが尋ねた。
私は少しだけ顔を俯かせた。どうしたって、〝花さん″のことを考えると憂鬱になる。
「……その、オーナーにね、好きな人がいるんだ。その好きな人がどうやら彼氏と別れてしまったっぽくて」
「え。嘘でしょ。好きな人がどんな人か知っているの?」
驚いている律ちゃんの問いかけに、私は首を振った。
「知らない。私はオーナーの親友……、あ、常連客の中にオーナーの親友がいてね。
その人との会話がこっちに筒抜けだから知っているだけなんだ」
「あの、素朴な疑問、いいですか?」
届いたキンキンに冷えた生ビールを持った沖くんが、不思議そうな顔をしながら口を開く。
それに私は頷いた。
「どうして、連絡先知ろうとしないんですか?」
「え」
「今時、女性から行動するなんて珍しいことじゃないし。なんか、勿体なくないですか?
だって、その好きな相手のことを今も好きって限らないし、もうとっくに好きじゃなくなってたかもしれないじゃないですか」
「沖と楓を一緒にすんな」
そう言って律ちゃんが沖くんの頭を小突いてから続けた。