cafe レイン


「俺初めて来たんですけど、ここってなにが美味しいですか?」


メニューが目の前にあるにも関わらず、それを開くことなく沖くんはオーナーへと尋ねた。
それにもオーナーは迷惑そうにするでもなく、「そうですね~」と答え始めた。


お客さんなのだから当たり前といっちゃ当たり前なのだが、こんな風に普通に会話している沖くんを心底凄いと思い、尊敬した。


「定番ですけど、うちのサンドウィッチは毎日味が変わるのでオススメですよ。それはランチにしかないですけど。
そちらのお客さんも、頼んでくれてますよね」

「え」


突然、オーナーから話を振られて私は目を瞬かせた。
話しかけられたこと、私を覚えてくれていたこと。
嬉しさと驚きでなにが起きたのかすぐに把握出来なかった。


「そうなんですか? 小野寺さん」

「あ、うん、じゃなくて、はい!」


沖くんに返事をしているのか、オーナーに返事をしているのか、よくわからなくなって変な返しになってしまった。
そんな私にオーナーが軽く吹き出すと、目を細める。


「はは、今日も、いつものですか?」

「はい、……お願いします」


そう微笑まれた顔が思っている以上に優しくて、私は急に恥ずかしくなって声が小さくなっていた。
もっと怖い人なのかと思っていたけど、そんなことなかった。

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