cafe レイン
「律ちゃんがいてよかった」
そう、ぽつりとこぼすと律ちゃんに力なく笑った。心配掛けているのはわかっているけど、動揺を隠すのでいっぱいいっぱいだった。
それと同時に、丸山さんと近付けただなんて浮かれていた自分に嫌気が差す。
拓、そう呼ぶ彼女と丸山さんと呼ぶ私とでは彼との距離に雲泥の差があるのは明白だった。
昨日、ずっと私と話してくれていた彼は今日は彼女につきっきり。
食事を運んできた時に少しだけ会話をしたけど、それ以外はずっと花さんと話している。
カウンターが見えないように座っていてよかった。背中を向けていてよかった。
見えていたらきっと正気でなんていられなかった。
「ホットケーキ美味しい。ほら、楓も食べてみて」
「……律ちゃん」
わざとらしく明るい声を出した律ちゃんがホットケーキをフォークに一口分さして、私の口へと持っていく。
それを頬張った私。メープルシロップと生地の甘さが口いっぱいに広がった。
「ん、凄く美味しい」
「でしょ?」
「ありがとう、律ちゃん」
「何が~?」
笑顔で首を傾げながら、ホットケーキをぱくりと食べる律ちゃん。その優しさが今の私にはとてもありがたい。
いつもなら食べてからもゆっくりするのだが、今日は早々に店を出ることにした。
それに無関係の律ちゃんを付き合わせるのは申し訳なく思ったけれど。
会計の時、ちらっとカウンターの方へと目をやる。
黒髪で耳下で揃えられたボブ。人懐っこそうな笑顔を見せていて、男女問わず誰とでも仲良くなれそうな人だなあって思った。
「いつもありがとうございます。またお待ちしてますね」
丸山さんはそうやって笑顔を見せてくれたけど、うまく返せていたかは正直わからない。頑張って笑顔を作ったとは思うけど。