cafe レイン
薄く色がつくリップを塗った時、ケイタイが震えた。
丸山さんからだ。
《会社の前で待ってて。迎えに行く》
その文面を見ただけで鼓動が速くなっていくのを感じる。ドキドキと心臓がうるさくて、どうにかなってしまいそうだ。
私はリップをポーチにしまうと、カバンへと押し込んだ。
最後に一度、鏡に向き合うとニッコリと笑顔を作る。
緊張してどうしようもないけど、迷惑だけはかけないようにしなければ。
お手洗いを後にした私はエレベーターに乗り込むと、一度大きく深呼吸をした。
全然心臓のドキドキはおさまる気配がないけど。
一階に到着を知らせる音が鳴ってから、扉が開く。エレベーターから降りてエントランスを抜けると外へと出る。
まだ丸山さんの姿は見えない。
どこにいたらわかりやすいだろう。
キョロキョロとしていると、前方から声がかかった。
「小野寺さん」
薄暗くなっていてもすぐに誰だかわかる。丸山さんだ。
「丸山さん」
「お疲れ様です」
「丸山さんもお疲れ様です」
緊張していたけど笑顔で言えたと思う。
白の無地のTシャツの上にチャコールグレーのカーディガン。それに黒のジョガーパンツ。
それから髪の毛を後ろでひとまとめしていて、昼よりもカッコよさが増している。
普段のふわふわしている髪の毛でもカッコいいけど、これもカッコいい。
雰囲気がいつもと違って恥ずかしさで直視出来ない。