cafe レイン
「やっぱり好きで始めたカフェだから、通ってもらえるのは凄く嬉しいんですよ。直接美味しいって言われなくたって、態度に出ているというか」
「そんな風に思ってもらえていたんなんて」
恥ずかしさを隠すように視線を丸山さんから逸らす。
だけど、次に丸山さんが発した言葉で私は硬直した。
「だからこそ、俺目当てで通っている人は迷惑なんですよね」
「…………」
彼の顔が見られない。自分自身にピシィっとヒビが入ったようだ。
私の様子に気付かない丸山さんは続ける。
「もちろんお客さんとして通ってもらえるのは嬉しいんですけど。連絡先聞いてくる人もいるんで対処に困りますよね」
「……それは困りますよ、ね」
動揺で声が震えていないか心配だった。私がその一人だっていうのは言えない。
こんなの、好きだなんて云ってしまったらすぐに関係が壊れてしまうじゃないか。
ランチが目当てだったのは本当だ。
純粋に美味しいし、毎日食べても飽きない。
でも、それ以上に丸山さんに会いたかったから通っていたんだ。
なんの繋がりのない彼との唯一の繋がり。
客とオーナー。それだけ。
それを私が断ち切るなんてこと出来たのだろうか。そこしか縋れないのに。
見るだけだってよかった。
例え、会話が出来なくたって好きだから。