cafe レイン
頭が真っ白になる。どういうことだろう。私になんの用事なのだろうか。
心臓がドクドクと変な音を立てる。緊張で全身が冷たくなっていく気がした。
「突然声をかけてごめんなさい。拓のカフェによく来てくれていた方ですよね」
丸山さんの名前が出て私はごくりと生唾を飲み込んだ。そう尋ねる心理がわからず、私は警戒しながら小さく頷く。最近は行っていないけど、通っていたのは事実だ。
「最近、拓、よく溜め息ついているんですよね。その理由問い質したら常連さんが来なくなったからって」
「え」
花さんの言葉に目をぱちくりとさせる。常連さんとはきっと私のことだろう。
「落ち込んでいるの可哀想なので、レインに行ってくれませんか?」
「……」
言葉を返せずにいると、花さんは続ける。
「私のお店でもあるので、レインって」
言っている意図がわからず、私が眉間に皺を寄せると花さんは面白そうにふふっと笑ってとんでもない爆弾を落とした。
「あ、知らなかったですか。私の名字、雨森って言うんです。そこから取ったんですよ」
彼女は勝ち誇ったような笑みを見せながら、「それじゃあ」って言って私の横をすり抜ける。
それからどれだけ経ったのだろうか。地面に足が張り付いたかのように動かない。
“私の名字、雨森って言うんです。そこから取ったんですよ”
何度も頭の中で響く花さんの言葉。
帰らなきゃ。明日も仕事だ。ぐらつく足を支えながら私は改札を通り過ぎる。