cafe レイン

ホームで電車を待っている間も考えるのは彼女の言葉。
レインがどんな理由でつけられたのか、どんな思いでつけたのか。彼に聞いたことなかった。
でも、彼のことだから何かしら理由があるのだろうって思っていた。


丸山さんは自分の店をすごくすごく愛しているように思えたから。

……そんなの当たり前だ。好きな人の名前から取ったのなら大切だろう。
どれだけ花さんのことを大切にしているかがわかって、望みなんて欠片もないってことに気付く。

バカみたい。あれは全て社交辞令だったんだ。
私にかけてくれた言葉全て。笑えてくる。彼の一挙一動にドギマギさせられていただなんて。


客とオーナーって一線があったのは最初からなのに、浮かれていたのは私だけだったなんて恥ずかしい。
家に帰ると私は彼とのトーク画面を開く。

滅多にやり取りをしていない履歴を見て、自虐的な笑みが漏れる。


この一週間。彼を忘れたことは一度だってなかった。
本音を言えば会いたかった。すごく会いたかった。優しく笑う彼をもっと見ていたかった。

話せば話すほどに、彼を知れば知るほどにどんどんと彼を好きになっている自分がいた。


「はあ……」


大きく溜め息をついた私は意を決して彼の連絡先をブロックした。履歴も削除した。
もう忘れよう。憧れのままで終わらせていればよかったんだ。

とんとん拍子に進んでいっていたから、付き合えるかもなんて自惚れてしまったんだ。
明日二人にはもう諦めるってことを伝えよう。


驚かれそうだけど、最近の私の態度からなんとなく感じ取ってくれているかもな。察しのいい二人だから。
そんでぱーっと飲みに行こう。


金曜日だし。ハメを外して飲みに行きたい。
それを想像したら少しだけ元気が出てきた。

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