cafe レイン
“水を差すようですが……俺、別に何もしてないですよ。顔を覚えられていたのは小野寺さんじゃないですか。”
そうやって言ってくれた沖くんに、変わらないなって思った。クスクス笑うと私は話し始めた。
「実は……もう諦めようかなって思って」
「え」
ジョッキを手に固まった沖くん。まじまじと私の顔を見つめた。
「花さん、彼の好きな人って前に話したじゃない?」
「ああ、はい」
一瞬考えてから沖くんが小さく頷く。
「どうやらね、相当丸山さんは彼女のことが好きみたいなんだよね」
「どういうことですか」
「丸山さんと出かけている時、当たり前のように彼女から電話があってさ。親密そうだったし」
自然と丸山さんの腕に触れる花さん。あの時の二人を思い出して胸がチクリと痛む。
「仲良しなだけじゃないんですか」
「私も最初はそう思ったんだよね。幼馴染らしいし」
「じゃあ」
食い下がる沖くんに私は力なく首を振った。
「店名。丸山さんのお店の名前」
「名前? レインですか」
意味がわからないのか首を傾げる沖くん。
「……そう、それって花さんからとったんだって」
「え」
沖くんは目を真ん丸にする。私は話しながら自嘲していた。
「雨森、っていうみたい。彼女の名前」
「うわー……」
口元に手をあてながらぼそりと呟く。それから沖くんは目を泳がせた。どう反応したらいいかわからないみたいだった。