cafe レイン
丸山さんと声をかけようとしたところで。
「んー……花?」
と、彼が寝ぼけた声で呟いた。
言葉が出なかった。私は立ち上がるとカバンを持って急いで彼の部屋を飛び出した。
エレベーターに着くと、私は下のボタンを何度も押す。
早く、早く来て。呼吸がおかしい。私がエレベーターに乗り込み、一階を押して閉じるボタンを押そうとした時、ぬっと手が伸びて閉まるのを阻止された。
目の前に立っている人物に私は息をのむ。
「……ま、るや」
私が名前を言い終わるより前に、エレベーターに乗り込んできた丸山さんが私の腕を掴み、壁に押しやって動けないようにした後。
私の唇を強引に奪った。
何度も角度を変え、息も出来ないほどに唇を貪る。
「っ、は、」
新鮮な空気を求めようとするが、彼がそれを許さない。どんっと彼の胸を叩く。頭がクラクラしてきて、力が抜けていく。
やっと解放してくれた時、私は腰が抜けそうだった。それを支えながら丸山さんが浅く呼吸をしながら口を開く
「ごめん」
「っ、……なんの、ごめんですか」
「まさか、部屋にいるのが小野寺さんだって思わなくて」
それでも花さんに間違われるのはあまりにも苦しい。今のキスの意味だってわからない。丸山さんがわからない。
じわりじわりと涙が滲んでいく。
私の頬を包み込むと、目じりに溜まった涙を親指でぬぐう。