cafe レイン
「小野寺さん、出かけた日から店に来ないから」
「……それは」
「何か小野寺さんの嫌がることでもしちゃったのかなって」
私は何も言えずに口を噤む。それが肯定だと思ったのか、丸山さんは眉を下げた。
「……小野寺スペシャル、小野寺さんが食べに来てくれないと意味ないんだけど」
ふ、と悲しそうに笑う彼。胸が苦しくて、だけど、今の私の気持ちを口にしていいのか。好きですって言葉は声にならない。
その時、大きな音が流れ出して二人して動きが止まった。
どうやらそれは丸山さんのポケットから聞こえた。止まらない音楽。着信だろうか。
ずっと鳴る音にはあっと溜め息をつく。ポケットからケイタイを取り出すと、画面を見て彼が固まった。
「誰ですか」
その態度だけで誰だかわかってしまう。なんてタイミングが悪いのだろうか。
こんな時間にかかってくるなんて、きっとただ事じゃない。
「花さんですか」
私がそう尋ねると丸山さんは何も答えなかった。
エレベーターはとっくに一階についていて、開くボタンを押すと黙って私は外へと出る。
「小野寺さ」
「もう、お店には行きません。ごめんなさい」