ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「アホって、」

「好きだ」

「!」

カウント5。

「好きだから、全力で誘惑してんじゃねーか」

「!」

カウント4。

「言っとくけど、今まで俺から口説いた女はお前しかいないからな」

「う、嘘だぁっ」

「誰がこんな恥ずかしい嘘つくか!コッチは必死だっつの!」

「!!」

3、2。

「優李に有効かは知らねーけど……っ、」

あー恥ずかしい!全部俺だけど俺じゃねぇっ!
優李の信頼を得ても、ゴリッゴリ削り奪われ丸裸にされる恥辱に、これ以上口を開くことが躊躇われる。

「……っ」

けど、これでもかというくらい真っ赤になった顔で言葉の先を待つ優李の顔を見ると、ドMになったように重い口が愛を吐き出す。

「こんなにどハマりして好きになったのは優李が初めて、だっ!
お前ほど、俺から生まれて初めて掻っ攫った女はいねーんだよ!」

カウント0。

俺、もう一生分の辱めを受けた気分だ。
(カウントは俺の残りHP)

恥ずかしさで項垂れ、コイツの首元に顔を埋める俺に、硬直したまましばらく黙る優李。

それでも、何がウケたのか(むしろ全てがウケたのか)、不意に小さくプクプク笑い出す優李に、俺は口を尖らせた。

「妙な笑い方すんな」

「だって」

「なんだよ」

あーもうどうにでもなれ。出し切るだけ出し切ったら、もう落ちることはない。無敵だ。

「発情しちゃう」

あーまたかよ。こんな時にも画家ってやつは。

項垂れた重く熱い頭をのそっと持ち上げ、こんなこともあろうかと用意していたスケッチブックの袋に手を伸ばす。

「アルマーニはもう止めろよ?ここにーー」

「発情、してます」

グイッと掴まれたシャツの袖に、どこか不満げに欲情した女の目。

「……え」

「鈍ーい。これだから受け身まけぃたは。」

「はぁ?誰が受け身まけぃただ!」

確かにことを成すまでは積極的な女に任すきらいがあったけど!

それと受け身かどうかは別だし、この場面でまけぃた呼びとかーー

「!」

頭で言い訳していたことが全てすっ飛ぶ。

これは俺の願望だろうか。

耳まで真っ赤になった優李が、俺のシャツのボタンに手をかけ、プチリ、プチリと外していく。

「優、」

「不本意だけど……」

全てのボタンを外し、素肌にそっと触れてくると、信じられないことをポツリと言った。

「誘惑、されました」

「っ、」

「画より優先したいことなんて、生まれて初めて」


これは、本来のあるべき発情とみなしてオーケーだよな。

優李が一番力を抜く角度で、今度は優しく、抱き寄せて口付ける。

「っ、……あっ、」

次いで耳に軽くキスを落とし、身震いして言葉の詰まる優李に耳打ちした。


「多分、朝までかかるかも」

「!」


サワというひとが何を危惧したかは知らない。

俺が、何をしてしまったかなんて知ったことか。


ハッキリしたことは、俺がやっと優李を手に入れたってことだけだ。
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