ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
つついたら面白いな。とか、そーゆーのは置いといて。

予兆はずいぶん前から少しずつあった。

彗大を利用しながら、ボツを含めた三枚の油絵を描いていたあの頃あたり。

カラオケで口に指を突っ込まれた時。初めて色への集中が途切れた。

二枚目は集中しなければと気合いを入れ直していたからともかくとして、三枚目。

彼のわたしへの気持ちに対する罪悪感かとも思ったけど。あの時、しょうこちゃんの着信がきて、矛盾程度には自覚した。
“色を魅たい”の他に、別の感情が湧いていたことを。

そして、彗大との関わりが深くなればなるほど、
自分の色へのバランスがとれなくなっていた。

それに初めて気付いたのは、油画の高評価から次の依頼が舞い込んだ時。

最初は、別の仕事をまた彗大に手伝わすのは忍びないという申し訳なさもあって、軽い気持ちで「今回はいつも通りひとりで進めてみる」としょうこちゃんに言った。

愕然としたのは、筆を持った時。

初めての感覚だった。
描きたい感覚が断絶されたような違和感。

そもそも、描きたいの?とか。
何を描こうとしたんだっけ?とか。
とぼける気はなく、大真面目に。
だから余計にショックだった。


無理矢理色を乗せれば、それなりのものは出来ても、全然納得がいかなくて。

しょうこちゃんも「あの二枚が良過ぎた分、やっぱ、うん。物足りよね」と、再度書き直しの要求をしてきた。

何度描いてもそれなりで。

見かねたしょうこちゃんが、彗大の名前を出して、余計に悔しくなった。

失いそうなモノの大きさに、計り知れない不安がわたしを襲った。


大丈夫と突っぱねても、しょうこちゃんには大丈夫じゃなかったのを見透かされてる。

焦って、焦って、焦って。

だから、彗大が絶妙なタイミングでハロウィンイベントに誘ってきた時は、本当はとても複雑だった。



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