ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
なんだか、カンニングしてるような気持ち。

それでも断れなかったのは、それがわたしの救いになるとやっぱり知っていたからだ。

出来るだけ自分ばっかり喋れば大丈夫。
彗大の声を聞かなければズルしてない。

必死で言い訳しながら、これは気分転換、彗大への気まぐれなサービスだと言い聞かせた。

だから、このデートがそもそもしょうこちゃんから回されたモノと知った時は、恥ずかしくて悔しくて悲しくて。

ああ、笑っちゃう。

“私がこれからも色んな世界を見せ続けてあげる。”

しょうこちゃんは昔も今も、約束をちゃんと守ってくれてるだけだ。

わたしとしょうこちゃんは、仲良しだけど、あくまでもビジネスパートナー。雇用契約によって成り立っている関係だから。

わたしの我が儘だけが通るだなんて思ってない。わかってる。

“だから、優李は私に優李の世界を魅せ続けて”

わたしもちゃんと、約束を守らなきゃいけない。


この10日ほどで思い知ったこと。

彗大がいなければ、今のわたしじゃ“社優李”ではいられなくなるということ。

それによって、導き出されたこと。

わたしが“社優李”でなくなれば、きっと彗大も離れてしまうということ。


“引力の強い画を描く社優李はどんなクソ女であっても人を惹きつける”

昔、親切な友人にそんなことを言われたけど、まさに、その通りだった。

男女問わず今まで何人もの人が、社優李の画の引力に魅せられて、わたしに疑似恋愛するのを見てきた。

彗大だって錯覚しているひとりだ。

社優李の抜け殻はめんどくさいだけの声フェチ。
引力がなくなれば、当然愛想つかせて離れてしまうに決まってる。

なら、勘違いしている内に、付け込まなければ。

彗大への罪悪感がないわけじゃない。

けれど、魅たい、描きたい。
その欲望が遥かに強いから、汚くても、ズルくても、わたしは選ぶ。


「えっち、する?」


あれも嫌これも嫌は、通じない。


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