ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「アルマーニ2着分の慰謝料寄越せ!」

佐波さんの言う通り、とにかく気持ちを落ち着けようとのらりくらり彗大をかわし続けて9日目。

久々に聞いた彗大の声に、出会った頃以上にダイレクトに届く彗大の声に、飛びついて貪ってしまいそうな衝動にカラダが疼く。

佐波さん、全然気持ちが落ち着いてないよ!
むしろ、会えなかった分の禁断症状が、今本当に辛い!

どうにかこうにか我慢して追い払おうとするのに、今日の彗大はかなり強引だ。

「さっさとスーパー行くぞ」

挙句、ロクに料理も出来ないのに、なぜかわたしがもてなさなければならない事態になって、考える間も無く彗大の部屋に案内された。


禁断症状を抑えながら料理を強いられる二重苦に、わけもわからず野菜を刻む。

とにかく、まともに見えるわたしでも作れる料理をと、彗大に隠れてお料理検索。

「あ、クックパッドで“簡単 時短 うまい”検索してやがる!」

「かっ、勝手にスマホ見るとか最低ーっ!」

(検索内容まで見られた!恥恥!)
それがあっけなく見つかって、一気に流れが変わった。


そこからは、なんだかいつも通りに戻ったようなスムーズなやりとりで。

だからつい、佐波さんに助言されたことを守らずに挑発してしまった。


「それ、だれ?」

「高校の時の、教育実習できた音楽の先生」

「女?」

「……男」


だって、わたしばっかり嫉妬して、わたしばっかりモヤモヤするのは面白くない。

けれどその感情が思いの外、剥き出しだったことが逆にわたしの気持ちを暴く引き金に変わる。

「根に持ってんだ?」

「リピートすんな!」

どうして彗大ばっかり余裕なの?

ずっと手の上で転がしていた筈の彗大が、今じゃわたしの方がすっかり転がされてる。

「わたしの知らない声を、他のオンナがうじゃうじゃ知ってるのがめちゃくちゃムカつくっ!」

どんどんわたしの余裕がなくなって、言いたくないことまで叫んでる。

みっともない。恥ずかしい。

やっぱり、描けなくなったことが原因なの?

急過ぎるあのプロポーズのことだってそうだ。

「でも普通の時だったら彗大、あんな不用意なこと絶対言わないからっ!」


ほら、言葉に詰まった。
やっぱりあのプロポーズに、彗大は早速後悔してる。

佐波さんの言う通りだ。

やっぱりわたし、今はまだ彗大に会える状態じゃなかった。


「だから彗大、わたしが落ち着くまでもう近寄らないで!」
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