ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
ウチの事務所から宮下画廊までの所要時間はスムーズにいって約30分。

最寄りの駅から画廊まで徒歩8分を、無駄に全速力で3分にしたからといって、結果に大した差はないのだが。

むしろ、これからの魔オーナー様との対決に、温存できるHPは少しでも残しておくべきだったかもしれないが。


今日定時で上がれたことも、俺がここに何を持って来るのかも、ヘボ坂上伝いでオーナーには筒抜けだろうから、これ以上待たすのは失礼というものだろう。

あーくそ!緊張する。あいつのビジネスパートナーとして最大限、動けているのだろうか。

社優李を支える重圧を一番知るオーナーとの、本日一番、最終見せ場対決だ。



「これに、サインをお願いします」

「あっはは!優李との婚姻届でも持って来たのかと思った」


今日も完璧な美しさで出迎えてくれたオーナーは、何もかもを知っている癖にすっとぼけた事を言ってゲラゲラ笑う。

しかし、オーナーの目は笑っていない。

いつもに増して迫力のある目が俺を貫くように見る。

「で?おたくの上司はなんて?」

「オーナーは絶対受けると」

あんのクソ男、と舌打ちしたのは見なかったことにして。それでも、書類に目を通したオーナーの表情が僅かだが楽しそうに見える。

「これさ、イチからになるけど納期は?リミット3週間弱で、どっちも間に合うと思って持って来たワケ?」

「コッチは死ぬ気で間に合わせます」

「あのさ、コラボ企画の意味わかってる?これ、やり方次第じゃそっちの事務所ノークレジットになっちゃうかもよ?」

「それはコッチの腕の見せ所なんで」


わー生意気。にっこりと笑顔を浮かべるオーナーの顔面に、デカデカとそんなテロップが貼りついている。

当然と言えば当然。普通なら、俺はとても無謀で事務所に不利益な提案をしている。

でも、同時に無謀でないと確信している。
デザイン事務所の総力と俺のハイスペックな底力を信じている。

(ちょいちょいヘボ上司とかボケ同僚とか紛れてるけど)
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