ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
それにしても。

「器用、だね」

「お前は不器用過ぎるな」


みるみるうちに仕上がる綺麗な巻き髪に、触らぬ“髪”に祟りなし的な、気付くべきでなかった気持ちがじわりじわりと渦巻いていく。巻き髪だけに。


料理さばきといいコテさばきといい、なんで彗大、こんな女子力高いの。

彗大に見せたくて頑張ってたのに、それを志半ばでその張本人が難なくこなすとか、本末転倒過ぎるでしょ。
ここは出しゃばらないところでしょ!

そりゃぁね、巻き髪の女の子、今までいっぱい周りにいただろーしね?

「…………。」

巻き髪女と楽しく過ごした後の、
“巻き髪リセットからの巻き髪にまた戻るまでの工程”を間近でみる機会も……それなりにあっただろーしね。

「……………。」

巻いてみたいなーとか言って、ジャレながら実践とかもしてきたかもしんない、だろーしね。

「ん。こんなもんか」

魚も女もコテもサバきまくりで。
そりゃ、女子力も高くなるって話だよね!

「優李」

……一体どんだけ経験積んできてんのっ!こんのタラシ男めぇ!


ちゅ。

コテを床に置く音、ではない。

遅れてコト、と今度こそコテの置く音がして、もう一度、ちゅ、と。

彗大の唇が降ってくる。

「もーダメ」

え?……え?!

不意に根を上げるような声がしたかと思うと、今仕上げたばかりの髪を急にくしゃつかせて、思い切り抱きしめられる。


「久しぶりに触ったらヤバイ。ナニコレ。悶え死ぬ。」

更にぎゅっと抱きしめられ、現金にもさっきまでの怒りが瞬時に鎮火する。

わたし、チョロ過ぎるっ!


「なんだそのクソ可愛いの。それも計算……?」

「……?!」

「もう可愛すぎて意地悪できないし」

「?」

「置き手紙だけで消えた仕返し。」

「!!」

「さっきまでスネてた顔も、簡単に機嫌直す今の顔も、めっちゃクル。もう押し倒していい?」

「!!」

そして大火災の予感しかしない火種に着火する。
(なんじゃこの炎上リレー!!)


「別に、優李が想像したよーな……いかがわしい理由じゃないから」

「!!」

彗大、どこまでわたしの脳内を?!
わたし、そんな分かりやすい顔してた?!

余りにゲスいベクトルの妬き方に、日頃の残念な女子力が垣間見られてーー
わたしの方が悶え死ぬわぁー!!

「普通になんでも器用なだけ」

「普通に嫌味か」

トドメを刺すな!ソツ無し男め!
< 131 / 144 >

この作品をシェア

pagetop