ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
だ、だめだだめだ!

これじゃあ、いつまでたってもイベント会場に行けない。流石にメイン2人が最終確認に行かないのはあり得ない。

「じゃあ、どうしたら納得するの?」

「オールウェイズ、襟首狭目の長袖長ズボン」

「……今時、山ガールでももーちょいオシャレじゃない?」

「もう外は、年中コートにもっさい帽子とサングラスにマスクでいいくらい」

「それ、ただの変質者」

「それくらいでちょうどいい」

いやいやいや。それでなくても女子的戦闘力が軒並みで低いのに。

見た目まで変質者になって、ちょうどいいわけないでしょーが。女子としての人生閉鎖しちゃうでしょーが。

この人、本当は馬鹿じゃなかろーか。


「もーいいよ。真面目に聞いたわたしがバカでした!」

彗大をよいしょと押し退けて、乱れかけた服を整え立ち上がる。

予備に持っていたシュシュをカバンのポケットから取り出し、首の跡が一際目立つ様に、ボサボサ髪を括りあげた。

「、ちょ!」

「彗大って、超、自分勝手!」

「……知ってる」

コテの側に置いてあったメイクポーチからグロスを取り出して、鏡を見ながらもう一度、丹念に引き直す。

「女心がわかってない」

「彼氏いて、無駄に可愛くなる必要、なくない?」

「あるよ」

「なんで」

カチャン、と化粧ポーチにグロスを片付けチャックを閉める。

本当に、彗大だって十分アホじゃない!

「彗大に可愛く見られて、一秒でも長く悶えられたいからに決まってるでしょ!
そもそも女に無駄な可愛さなんてあるか!」

ふん!と聞こえそうなくらいの鼻息を出してる時点で、可愛いげとは相反する行動だろうけど。

「ーーっ!」


彗大はかなり変わってる。

後ろから捕まえるようにギュッと抱き締めて、それから耳元で、すごく可愛い声を搾り出した。


「降参するから。会場までのどっかで買うから。……せめて……ネックウォーマーだけはしてくれ」

「ーー、」

最大譲歩だ、と。せめてその首だけは俺にしか見せないでくださいと小さく呟いた彼の、横柄なのかお願いなのか定まらないその声に、鷲掴まれた。

羞恥と独占の、一番搾りのような声。

彗大の声に、どうしようもない色が溢れ出す。

ああーわたしもまだまだコントロール不足だわ。

彗大の色を描くのはすごく集中力がいるから、もう少し、魅る気はなかったのに。


「ーーくそ。その眼、今、魅てんだろ」

「……えー?彗大に“首ったけ”なだけだよ」

「首繋がりでうまいこと言うな」



色への飽くなき探究心。

それを一番、底もなく頂もなく刺激し続けるのは彗大だ。

うっかり全開放しても、前ほど怖くないのは、自分のキャパを認めさせてくれた友人と、わたしをずっと信じ続けて待っていてくれたパートナーが居たから。

そして、隠さずさらけ出せるのも、見逃さず受け止めてくれるのも、それはやっぱり彗大だから。



「わーかったよ!その続きは夜、付き合ってやるから!最終確認行くぞ」

「はぁーい」


わたしたちはようやく、対等に向き合えたんだ。
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