ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
地味なセクハラを続けながら吐き出す言葉に重みのカケラもないが、過去の話ごときで今の貴重な時間を無駄にはしたくない。

「優李」

続きを促すように名を呼び、耳にちゅ、と唇を落とす。

「っ、ん」

人よりズバ抜けて音に敏感な優李のそこを今狙うのはズルいかもしれないけど。

俺的には、今日の残念な時間を早く取り戻したいワケで。

一瞬、むぅ、とした可愛い顔も捨てがたかったが、すんなりと俺の首を引いて唇に噛み付いてくる優李のそれが溜まらなくて。

俺の、未熟者め。

そう簡単にこの女が納得するワケがなかったのだ。

これが優李の仕返しとも気づかずに、続きを促した自分が主導権だと勘違いしたまま、俺はノコノコと誘惑に乗ってしまった。



「ーーはぁ…っ」

気のせいか。部屋に響く吐息とか、目線の流し方とか。髪のかきあげ方でさえ。

今日の優李はやけに艶っぽい。


一ヶ月前とはいえ、記憶にまだ新しい優李との情事。

あの時もかなり濃厚な時間を過ごしていたから、まだ知らない優李がいたことに驚く。

というよりは、かなりモヤつく。


今日の優李は、やけに露骨に、“技”を出してくる。

今までも、なかなか計算高いアレコレはあったし、度肝抜かされることも多々あったけど、“この手の不快感”はなかった。

それは、かなり意外なことだったが、優李に男を立てる配慮があってのことだった、ということなんだろう。


……………。

なんとなく、分かったぞ。
魂胆が読めてきた。

このあざと女子め。俺にもモヤモヤをお裾分けする為に、過去の男の影をチラつかせるどころか、惜しげもなく披露してきやがったな?



「なぁ優李、もしかして」

「今日の彗大、ちょっと佐波さんとかぶったんだよねー」

「……は?」

最っ悪だ。わざと、か……?
なんで今、あいつの名前を出してくるんだ?

「そういえば、いつもこんな感じで、わたし言いくるめられてたよなぁー、とか、って」

言いくるめる?ああ、俺のせいか。詐欺師発案の嘘くさい演説をしてたのは確かに俺だ。

つーか、詐欺師にも俺にも言いくるめられてる自覚はあったのか。

しっかし、このモヤモヤするタイミングであいつの名前はーー


「でも、佐波さんも彗大も、言うことに間違いないもんねー。
モヤモヤしたって、変わらない“事実”だし。今の自分を作ったのは過去の“経験”だし。
“その経験”で今、彗大との“有意義な時間”が過ごせるなら、結果オーライ、だよねぇ」


ダメだ。あかん。
嫌な予感しかしない……!

悪魔の証明レベルの難題を、これからこいつがやってのける予感。

また、俺の言動がブーメラン方式で返ってくる……!


「彗大はすごいね?わたしってば未熟だから、彗大の触り方ひとつでヤキモチ、妬いちゃうし」

「!」

つ、と俺の身体に爪を立て、不覚にもクセになりそうな独特の感覚を与えてくる優李。

「彗大みたいにわたしも気にせず、もっと過去の経験、フル活用すればもっと有意義な時間過ごせるもんね?」

「!!、!!、!!」

技!技!技!のフルコンボ!

悪かった!お前のフル活用、素人じゃねーぞ、どーなってんだ!


「っていっても、彗大ほど経験人数ないから、そればっかりに頼ると“趣向の偏り”出ちゃいそうだし?困ったなぁ」

「別に、俺とそんな変わんないんじゃね……?」


自分の彼女にコレ言うのも最低だろうが、別に自分をフォローした意味ではない。数々の技がそう思わせるんだバカヤロー。
(くそ!彼女と思うと罵倒のセリフもヌルくなる!)



「2人だよ」

「は?」

「彗大入れて2人。」
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