ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
まけぃたくん。

今までの人生で起こり得なかった呼ばれ方に、一瞬何を言われたのか理解できない。

じっと俺を伺うその女のキラキラした目が俺の反応を明らかに期待していて、された仕打ちの謎が深まる。

初対面の女から、こんな侮辱を受けたのは生まれてこの方初めてだ。

というか、初対面の女に限らず、人類史上で初めてだ。


しつこいだろうが、もう一度言う。元々の格差と憎まれないコミュニケーション能力。

男ならではの縦社会の縮図(先輩、先生、上司と押さえるべきところに重宝されれば、男社会でバッシングされることは早々ない)から、
褒められ媚びられこそすれ、楯突かれたことなど一度としてなかった。

なのに。なんで。俺は今、互いの名刺交換もしていない、出会って1分にも満たない女に、
『ま(負)けぃた』なんて、自分すら今まで気付かなかったイジリ感満載のあだ名を付けられ、
更には疑問や文句を呈さないでいられるのか。


とりあえず一番に伝えるべき箇所は、


「もー。まけぃたはすぐ、俺って神がかってるぜ☆伝説の世界に浸りたがるぅー。そっちはそんなに良い湯加減なんですかーぁ?」


まけぃたやめろ!!
俺の軌跡を黒歴史風に塗り替えんのやめろ!!
あと湯加減とかちょっと上手いこというな! イラッとする!!

(そしてなんで俺が過去を反芻していたのが分かった?!)

だめだ!伝えるべき事柄が多過ぎる!

俺は!神山、慧大!
かみや、まけいた、では決してない!!


例え腹の内であっても、爽やかな取材風プロローグ後の冒頭一発目から、
年収とかいやらしい話をぶち込んだり、他人に毒づいたり、
本来の俺ではあり得ないこと!な、ん、だ!(活!)

そうだ。切り替えねば。

俺は今、“神山にしか出来ない大!案件”(自身を奮起する為ちょっと盛った)を上司に頼みこまれて、仕事でここに来ている。

今回はクリスマスイベントの超ビックプロジェクト。
共同での仕事を殆どしないと言われる激レア級のクライアントとのコラボ企画。

こんなところでつまづいている場合ではない。するべきことは分かっている。

まずはクライアントの指示に則りつつ、先ほどまでの通常営業スマイルではなく極上営業スマイルでこの女を黙らせ、主導権をこちらに……


「ふー、まけーたー。本当に有能なの?キミ」

「っっっ……!」


なんっでこんなクソ女の補佐なんかが大案件なんだよ!!


「はいはい、優李ー!
初日早々、“まだ口のきけない”神山くんをいじめないの!」
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