ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
……“あーん?”

拍子抜けする場違いな言葉の響きに、思わず押し倒され、おまけに馬乗りされてる状況を忘れて呆けてしまう。

するとコイツは自分のポケットから出した飴を取り出し、包みを解いて俺の口へコロリと放り込んだ。


「???」

「美味しい?」

「は?」

「美味しい?」

「……ああ」

なんだ急に?

コイツの奇行はいつものことだが、奇をてらわれ過ぎて、正直、飴の味もコイツの思考も全く味覚と理解が追いつかない。


「私のお気に入り。最後のひとつ。」

「……ああ」

「喜んでくれないの?」

「は?」

「最後のひとつ!喜んでくれないの?」

「ああ、嬉しいです。サンキュ……?」


少しやりとりをしてみたが、やっぱり理解不能だ。

さ、最後のひとつ?なんで欲しくもないものにそんな恩着せがましい言い方されてんだ俺?
なんでこんなに喜びを強要してくんだ?さっぱり意味がわからん!

俺のテロップ読み機能もコイツに至っては完全オフになってしまって、どう取り扱っていいのかガチでわからない。

「もう怒ってない?」

「は?」

「だから怒ってない?!」

いや、怒ってんのはむしろお前の方じゃねぇの?
と返したいところだが、これは間違いなく不正解な選択だということだけはわかるから、敢えてふっかけるようなチャレンジはしない。


「……別に怒っては、」

「嘘!途中からすっごい色が変わったよ!」

「は……」

ははぁ、なるほど。そういうことか。

なんか知らんが俺が怒ったと思い込んで、俺にお気に入りの飴をくれた、と。

て、飴って!子供か!
飴ひとつでご機嫌取りって、どんだけ簡単に扱えると思ってんだコイツ!

なんなんだ、なんなんだコイツは。

コイツと出会ってから、“生まれて初めて”尽くしに、“なんで”“なんだ”連発のワケわかんねぇ尽くし。

はぁー……。計算高い癖に。俺のことなんか全然好きでもない癖に。

なんなんだこの心が柔らかくなる存在は。

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