ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
今までにない試みが始まった。

「まけぃた、今度は逆立ちして輸血させろって言ってみてー?」

おちょくっているように聞こえるかもしれないけれど、わたしは至って大まじめだ。


いまだかつて、ビジネス画に関してわたしの耳は、しょうこちゃん以外の特定個人の声を受け入れたことがなかった。

街中を歩いている時の抜けるような喧騒、公園の中で溢れだす子供のコロコロしたはしゃぎ声、気分で出向いたクラッシックコンサートでのバイオリンと金管楽器の十数小節間分の演奏音。

わたしの手掛ける画は、そこにある全ての音の一部分を切り取った色で、単体1つではなしえない。


「初めまして。私、宮下画廊のオーナーをしております、宮下祥子です」


だからしょうこちゃんと出会ってから、また世界が変わって。

しょうこちゃんをきっかけに、他の人でも描けないか努力した時期もあったけど、無理に向き合おうとすると限りなくつまらない作品になったりして。

自分の底が見えたみたいでショボくれてたらしょうこちゃんは
「私がこれからも色んな世界を見せ続けてあげる。だから、優李は私に優李の世界を魅せ続けて」
なんてプロポーズみたいなことを一際いい声で言ってくれたから、わたしはしょうこちゃん一筋で描き続けていた。


そのしょうこちゃんが、わたしの為に持ってきたコラボ話。

彼の声を聞いて、しょうこちゃんが意図していたことを瞬時に理解した。


しょうこちゃんは、色んな世界を私に見せると約束したから。

しょうこちゃんが、わたしに唯一与えられなかった色ーー。



欲望の色。


最初から与えてくれることが当然のしょうこちゃんに対して、彼はこれ以上与えてやるものかと常に出し惜しみする。

(嫌がらせではなく、割と切実なお願いなのに!)

「嫌「ああ、ごめんごめん!輸血ネタばっかじゃ鮮度も落ちてくるよね?ここらでそろそろ新しいネタ「言えばいいんだろ!」


いかに引き出してやろうかと奮起すればするほど、音が広がり生きてくる。


「あ、その声もヤバイね」

「……輸血させろ」

「やだーん♡もう一回♡」

「っ……‼︎」


欲しくて欲しくて、欲望が止まらなくて。

止まらなくて止まらなくて、無限に新しい色が開けてくる。



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