ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
彼を怒らせては彼の声帯が震わせるその空気の色を見て。


「やーなんか呼ばれたから」

「はぁ?呼んでねぇよ!」


彼の着ていたシャツの素材に色を乗せてみれば、彼の声帯はまたどんどん違う色を魅せてくれる。


「ね、もっと」

「、なにを」

「こえ」

「あ、ああ……」


キリキリと絞られた糸の、ちぎれそうでちぎれない、そんな不安定な音に感情の美しいグラデーション乗っかって、わたしをどんどん夢中にさせる。

「ふ、緊張してる」

「っ、はぁ?」

「いい支持体」

「俺の身体はキャンバスかよ!」

「ふ、褒めてるのに」

打てば鳴るとは言ったもので、彼の音はいちいち面白い。

「いつまで塗りたぐる気だよ」

色彩豊かで、色の移ろうスピードも情報量も多すぎて。

「へぇ。まけぃたって、そんな声も出せるんだ?」

目も耳も一瞬たりとも離せない。

だから、愛おしくてつい、彼の喉を舐めてみたら

「っっ、お、前、は……っっ、」

「もーまけぃたさぁ。そんないっぺんに色んな音だされても、描ききれないよー?」

「誰のせいだよ!!」

またさっきまでとは違う種類の、感情むきだしの強い色を魅せてくれる。

よく、コロコロ表情が変わるとか、1人百面相とか表現される類の人がいるけど、彼の場合、色のソレだ。

「興味をそそらせる、まけぃたが悪いんだよー」

久々の描き甲斐ある相手が堪らなく嬉しくて、自分の中で幸せな気持ちがふわふわ膨らむ。

地味にわたしは、彼のとりこなのだ。



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