ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
どうしたんだコイツ?!
どうすんだ俺?!

「ちょ……、お前、」

「彗大」

ぴと、っと胸元にこいつの頬が擦り寄ってくる。
サラリと揺れる髪からは、ベタにも女子特有の甘い香りがあがってきた。

「彗大の心臓、はやーい」

「っ!」

「あはは!今ビクってなったー!」

いちいち実況中継すんじゃねーよ!

自慢じゃないが、今まで色んな手で近付いてくる女達を唸るほど見てきた。

酔ったフリをしたり弱ったフリをしたりする女達を、あざとさには気付かないフリをして。

俺を落とす為に一生懸命罠にはめようとする、試食一回分のパッケージが付いた女達を、素知らぬ顔でおいしく利用もしてきた。が。

あんなに分かりやすかった女達のように、こいつの気持ちがどうかと言えば、全く透けてこない。

だだ、今こいつがそういう類で誘ってきていないことだけは分かる。

だから。

「アホか、お前」

「……。」

こんな納得いってない顔で誘われて乗るほど、女に困った人生歩んでねぇんだよ。
ハイスペック舐めんな!


“好き過ぎると触れなくなる。”

昔誰かから聞いたような何かで読んだような一文が脳裏に浮かぶ。

なるほど。昔は逆じゃねーの?と思っていたが、こういうことか。

大事にしたいとか、嫌われたくないとか、好き過ぎるとそういう副作用が出るわけだな。

これは厄介だな。これはこれで振り回されてんじゃねぇか。

「彗大がバカじゃん」

「はぁ?!」

「わたし、えっちしていいっていってんのに」

「あのなぁ」

「キスしても拒否れなかったくせに」

「、お前」

「カラダは正直に反応してるくせに」

「!お、前、っ」

「痩我慢しちゃって、彗大がバカじゃん」

「………バカはお前だろ」


俯いてたってこんだけ近きゃわかんだよ。
なに泣いてんだバカ女。

コイツの頭を引き寄せ、胸に顔を押し付ける。

「……やっぱスる?」

「鼻水つけたらシバく」

「……ヘタレ」

「しばらく黙れ」

こんな憎ったらしいことしか言えない女がなんでこんなに可愛いのか。

あー。デートだっつうから、今日は作業服じゃねぇのに、また汚されるなー。

「……、」

小さいカラダが、今日はいつも以上に小さく感じる。

わからないようにと嗚咽に堪える彼女もどうしようもなく愛しくなって。

頭を小さく撫でたら、もう一回だけ微かな声でバカと言われた。

それがお礼を言われたように感じるなんて、俺は相当毒されている。
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