ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
ついでじゃねーし!とか、俺は本気だし!とか。

どうせ言ったって疑うのはコイツだから。

俺を一番欲しがるように。

自分から欲しがるように。


全力で誘惑してやる。


「え?彗大、ちょっ、んっ、ん……?」

唇を食むような淡い口付けに、今度はコイツから口を開くのをあえて待つ。

動揺と迷いがはっきりと映るコイツの目に、俺は迷いのないまっすぐとした熱を向けた。

今までとは全く違う口付けが、コイツに伝わるだろうか。

「優李」

浅い口付けのあと、初めてコイツを名前で呼ぶ。

呼んでしまえば、止められなくなると今までずっと呼べなかった名前。

本当は、一番最初に口にする名前は、お前が一番好きだと予想する声で呼びたかった。
が、俺も今日は余裕がないらしく声がかすれる。

それが優李にどう響いたかはわからない。

口を開けて俺を見つめる優李に、今度こそとびきり甘く濃い蜜を与えるように、角度を変えてゆっくり深く探り入っていく。

「優、李」

口付けの合間にもう一度名を呼び、縫い止める為に掴んだ手のひらに、つっ、と指を這わせてみれば、ピクリと反応して、軽く握り返された。



長く、長く、時間をかけて、しつこいくらい丁寧に。

どれくらい時間が経ったかはっきりとはわからないが、見たいとせがまれた特番の音楽番組の中盤から“こう”なって、それがもうエンドロールを出している。

混ぜかえしすぎて唾液が粘度を増してきた頃には、解放した優李の手は俺の髪を貪っていた。


「彗、大」

「ん」

煌々と明るい照明に、火照って涙目になった優李の表情が晒される。


「、……キス……長過ぎっ」

「…っは、可愛くてしたくなるんだから仕方ね、だろ」

「!」

お互い息切れるほどとか、どんだけ色ボケしてんだか。

いつもより遥かに分かりやすく真っ赤に染まるのは、恐らく酒のせいだけではない筈だ。

「可愛かったら、誰でも、こんな感じなの」

「誰でもじゃねー、よアホ。まだ伝わんねーのか」

これも、本気で言ってないことは分かる。

拗ねる仕草の優李も可愛いが、今は拗ねる要素をゼロにまでしないと意味がない。

< 99 / 144 >

この作品をシェア

pagetop