脳内☆彼氏
私は振り向かなかった。後ろに立つ捨華が、いつまた部長の姿になるかと思うと、怖い。

(部長が好きなんですか?)

捨華は平然と傷をえぐった。

(まさか!)

私は反射的に叫んで振り向いた。捨華はいつもの淡い色の長髪に昔の中華風の衣装。…よかった。

(ちょっとカッコいいとか思ってただけじゃん!隣りに立ててラッキーかもとか思ってただけじゃん!誰にも何にも言ってないよ?なのに、なんで皆…部長も、先輩達も…)

(花音は人を観察するのは好きだけれど、自分も人に見られていることに注意が足りない。)

(だって…私なんか誰も見ないでしょ?)

(そんなだから感情がまわりに丸バレになるんです。友達に嫌いなのに媚びてる態度とか?)

私は言い返せなかった。その代わり、ヘッドフォンを被ろうとした。

(やめなさい!耳が痛むんでしょう?)

(だって!考える事がバレちゃうなら、妄想してる事もバレるかもしれないじゃん!その前にあんたを消すの!)

叩き付けるように叫んだのに捨華は傷付かなかった。

(消せませんよ。)

(…なんで?なんで妄想なのに私の望み通りにならないの?部長のフリしていじめるの?)

捨華は私の泣き事を鼻で笑った。

(…人間が思い通りに出来るものなんて、何もありませんよ。自分の体も、頭の中も。)


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