脳内☆彼氏
(…寝よう。)

私は無理矢理目を閉じた。外で気を抜かない為には、まず起きていないと。ちゃんと夜、睡眠を取らなければ。


………そんな簡単に眠れる訳がない。布団の中で目を閉じると、嫌な事ばかり次々と思いだす。幼い頃の失敗から、今日の事まで。
あの時ああしてたら良かったって、どうにもならないシュミレーションをぐるぐる繰り返す。


だから寝るのって嫌い!やっぱり落ちるまで何か読んでたら良かった。

眠りに落ちかけると、今度は悪夢を見る。自分ではまだ起きているつもりだから幻覚なんだろうか。知ってる人の顔が次々出て来ては腐り落ちて行く。

(…怖い…もうやだ…)

でも半分寝ているから、金縛りの様に体が動かない。起き上がって悪夢を中断させる事も出来ない。


(…助けて捨華…)

(ようやく折れましたね。)

捨華が私を強く抱き締めて、易々と悪夢を退けた。安堵で涙が溢れ出た。

(私が、必要でしょう?)

私は泣きながら頷くと、捨華は満足気に微笑んだ。
負けたようで、悔しい。

(結局、元通り…)
(もともと私は、悪夢に怯えるあなたを守る為に生まれたのです。こうなるだろうと思っていました。)


その通りだ。私が初めて捨華を呼んだのは、小学4年生の時。初めて部屋で一人で寝なさいと言われた夜だ。
一人で寝るなんて怖くて無理だと思ったけど、新しいベッドまで買ってくれた親に嫌とは言えなかった。

電気を消した一人きりの部屋はオバケだらけ。悲鳴を上げて潜り込んだベッドは暗い河を彷徨う小舟の様だった。


(怖い怖い怖い!誰か私を守って!しっかり抱き締めていて!)

必死で願っても誰も来てはくれなかった。だから私は自分で作ったのだ。妄想の護り手を。





(捨華、あんた「必要」とか言わせる為に私を追い詰めたんじゃないでしょうね。)

捨華はニッコリ笑って、私の頭を撫でた。

(眠りなさい、明日の為に)

はぐらかされた。妄想に振り回されるって、かなり末期かも…


捨華のことでぐるぐる悩んでいる内に結局私は、部活のこともクラスのことも全部忘れて、捨華の体温に包まれて眠った。


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