鬼部長に溺愛されてます
旅行中に初めて掛けられた声につい涙が出そうになったけれど、「いえ、ちょっと疲れただけです」となんとか笑顔で返した。
「それじゃ、その疲れとやらを取りにいくぞ」
「えっ……?」
桐島さんは私の手を取ると、今歩いてきた方へと引き返し始めた。
「どこへ行くんですか?」
「行けばわかる」
そう言って、フットライトだけが照らす長い廊下をずんずん進んでいく。
いったいどこへ行くんだろう。
ついさっきまでいた宴会場の近くまで来ると、今度は右手にそれて、さらに奥へと歩いた。
そういえば、まだふたりきりで旅行すらしたこともなかったっけ。
本社に戻ってきてから半年が経ち、職務内容が変わったことで彼は仕事で手一杯になってしまい、初めての遠出がこの社員旅行だ。
「桐島さん、社員旅行って初めてじゃないですか?」
「よく知ってるな」