鬼部長に溺愛されてます
◇◇◇
午後十二時をちょうど回った十階の社員食堂には、溢れかえるほどの人が集まる。空いている席を探すのもひと苦労だ。
人混みを避けるようにトレーを抱えつつ、空席に目を凝らす。
「麻耶、ここ空いてるぞ」
掛けられた声の出所を探すと、数メートル離れたテーブルで手を上げる木下誠吾(きのした せいご)の姿を発見した。
誠吾も私とミオリとは同期入社の二十五歳。
癖のある柔らかな髪を無造作にまとめ、女の子でもとおりそうなかわいらしい顔立ちをしている。
髪を長く伸ばしてメイクをしたら、私よりうんと綺麗な女性になれるだろう。
その彼の前の空いている席へ、ようやく腰を落ち着けた。
「助かった。ありがとう、誠吾」
「いいや。ところで、ミオリは一緒じゃないのか?」
私の後ろにその姿を探して視線を泳がせる。
さては、彼女が目的で私を呼び寄せたのか。
「今日はランチの時間が別になっちゃったの」