鬼部長に溺愛されてます
「会議室に入ろうとドアを開けたら、ふたりがただならぬ雰囲気だったから、慌てて閉めたって言ってたな」
それで納得がいく。
あの直後、ミオリの私を見る目が少しおかしかったことを思い出した。あれは、“あの桐島部長といったいなにをしていたの?”という目だったのだろう。
「で、本当はどうなんだよ。だいたい棘が刺さったくらいで、あの冷酷な部長が抜いてくれるか? ありえねえな」
誠吾は全否定するように首を大きく横に振った。
本当の桐島部長は、冷酷なんかじゃない。みんなが優しいところに気づいていないだけなのだ。
「これは意外と……」
含ませた言い方をする誠吾を睨みつけてやった。
「なにもないってば。お願いだから変な噂を流したりしないでよ?」
「なぁんだ。もしもふたりがそんな間柄なら、妙な規則もなくなるかもって思ったんだけどな」
誠吾は残念そうな顔をして、椅子に背中を勢いよく預けた。
私と桐島部長がそんな関係になるなんて、どう考えたって成り立たない仮説だ。
当然のことながら、私のことは一社員としてしか見ていないのだから。
ほんの少しでも可能性があるのならという甘い考えは、彼には通用しない。
相手があの部長である限り、早く諦めることがベストだとわかっている。
そう思い込もうとすればするほど、止められなくなる想いが胸を締めつけた。