鬼部長に溺愛されてます
「あの……どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
なんでもないようにはまったく見えない。
平静を保つように努力しているのかもしれないけれど、メガネの奥の部長の目は泳いでいて明らかに慌てている。
黙って様子を見守る私に観念したのか、部長は「実は、大事な書類を失くしたようなんだ」と困ったように額に手を当てた。
大事な書類を失くした……?
桐島部長にしては珍しいというのが正直な感想だった。
仕事ではなにごとにも抜かりのないタイプというのが、私の桐島部長に対する印象だから。
「どんな書類なんですか?」
「……機密書類だ」
彼が小さく息を吐いてから答える。
「機密……」
そのワードと桐島部長の慌てぶりから、よほどの重要書類なのだと推察できた。
「データ自体は残っているから問題ないが、他の者の目にさらすわけにはいかないものなんだ」