鬼部長に溺愛されてます
「またみたいよ」
「またばれて出向?」
そのふたりから漏れ聞こえた会話に、隣で同じく聞いていたミオリと顔を見合わせた。
なんのことを言っているのかすぐに見当がついてしまうのは、特別に察しがいいというわけではない。ミオリも同様にピンときたようだった。
実は、パールクリエイトでは社内恋愛が禁止されており、もしもそのことが人事部長の耳に入ったときには、どちらかいっぽうが関連会社へ出向させられてしまうというなんとも理解し難いルールがある。
そして、そんな馬鹿げた人事異動は日々横行しているのだ。
その規則は私が入社する半年前に突然発足したらしく、当時社内恋愛続行中の人たちは、一年以内に結婚する誓約書を書かされるか、別れるか決断を迫られたそうだ。
でも今どきそんな規則を守る人は当然ながら少なく、人事部長の目を盗み、陰でこっそり付き合うのもスリルがあっていいという人もいる。そのスリルが自分のポジションを失う引き金になることを忘れて。
幸いという言うべきか、私は今のところそんな危うい橋を渡ったことはないけれど……。
私が入社してもうすぐ三年、これでいったい何人目だろう。丸山さん、大島さん、原さん……。指折り数えてみたものの、十本の指では足りないほどだ。