鬼部長に溺愛されてます

これから会議室のセッティングがあるというのに、ミオリは私に荷物を預けると身を翻して掲示板へと軽やかな足取りで行ってしまった。

仕方なしに、大荷物を抱えたまま会議室のドアを開ける。それと同時に、「あ……」と思わず口から声が漏れてしまった。
中に桐島部長がいたのだ。

桐島健人(けんと)、三十歳。
一糸乱れぬ黒髪は整髪料で整えられ、トレードマークの黒縁メガネの奥には切れ長の冷ややかな目を光らせている。
いつでもピンと伸びた背筋とその眼差しから発せられる厳しさには、人を寄せつけない威力があった。

桐島部長がまさか中にいるとは思いもせず、その顔を見て途端に胸は高鳴る。


「あと十分で開始時刻だというのに、準備はまだなのか」


真顔で厳しいことを言われ、嬉しさに弾んだ鼓動が一瞬で凍りつく。


「す、すみません。すぐにセッティングします」


早く終わらせないと、手際の悪い女だと思われてしまう。
慌ててプロジェクターを大きなカバンから取り出した。

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