鬼部長に溺愛されてます
桐島部長は私の肩を抱いたまま歩き始めた。
ついさっきまで抱いていた小さな恐怖はすっかり姿を消し、今度は心拍数の異常値に翻弄される。
ところが、横目で盗み見た部長はどこも変わった様子がない。私ひとりがどぎまぎしているようだった。
そうしてエントランスまでくると、今度は私の足が重くなる。
このままタクシーに乗ってしまえば、部長との時間は終わり。せっかくここで会えたのだから、せめてもう少しだけ……。
「あの、部長」
呼びかけて足を止めると、部長は立ち止まってくれた。
「よかったら少しだけお酒でも……。ちょっと喉が渇いちゃって」
そんな理由しかなかったの?と自分に突っ込みを入れたくなる。
ダメ元で聞いてみると、桐島部長は意外にもあっさりと了承してくれた。
私が支えなしでも歩けると判断したのか、私の半歩前をいく彼が振り返る。
「ここの最上階のラウンジに行ったことは?」