鬼部長に溺愛されてます
三十歳の若さで部長の肩書きを持つ桐島部長は仕事のできる男で有名で、彼の世代では一番の出世頭だとよく話題にも上がっている。
ただ、その噂話の裏には“冷徹非道”という言葉がいつでも隠れていて、一片の心も感じられない人事異動をめぐっては、いつも大論争が巻き起こっているのも事実。
もしかしたら社長を差し置いて、社内イチ恐れられている人だと言っても過言でないかもしれない。
身体を流れているのは赤い血ではなく、緑色のオイルだと言われるほどなのだからよっぽどだ。
でも……本当の桐島部長の姿はそうじゃないはず。新入社員研修のときに私に見せてくれた優しさは、見せかけではなかったはずだから。
それは、約三年前の新入社員研修でのことだった。
当時まだマネジャーだった桐島部長は新入社員研修の中心的役割を担っていて、講師として登壇することも多かった。
当時から桐島部長には厳しい印象があり、こちらが一瞬でも気を抜こうものならすぐにそれを見抜き、鋭い質問を浴びせたりすることもあった。
そんな中、連日の研修で緊張と疲れのピークにあったのか、私は午前の講義の途中で倒れてしまったのだ。前日の夜によく眠れなかったことも一因だろう。
目を開けたときには病院の一室で、ベッドのそばのパイプ椅子には桐島部長が座っていた。