鬼部長に溺愛されてます
「どうかしたのか?」
私の様子に気づいたのか、部長が不思議そうに私を見る。
「いきなり誘ってしまってすみませんでした。こうしているのを社内の誰かに見られたらと思うと……」
肩を縮めて身体を小さく見せようとしたって、姿を消せるわけじゃない。
それでもそうせずにはいられずに背中を丸めていると、部長は「心配するな」と言った。
「結婚式に招待されて、たまたま会っただけだと説明すれば済むことだ」
桐島部長に言われて、それもそうだと思い直す。
実際に付き合っているわけでもないのだ。処分の対象にすらならない。
そもそも私たちがふたりでいたって、桐島部長と私が恋人同士だとは誰も思わないだろう。それはそれで悲しい現実だった。
そうしてとりとめのない会話をしながらお互いにカクテルを一杯だけお代わりし、私たちはラウンジを後にした。
送ってくれるという桐島部長の言葉に甘え、一緒にタクシーに乗り込む。