鬼部長に溺愛されてます
一瞬、声を掛けたことを後悔したけれど、そんなはずはないと思い直す。
ここ最近の部長の私に対する態度が優しかったから、それが自信となり躊躇わずに彼の前へと回り込んだ。
「部長、あのメール――」
「俺に関わるな」
私が言いかけた言葉は、部長の冷たい視線と耳を疑う言葉に遮られてしまった。
ひとかけらの優しさも感じない空気が彼から放たれる。
「……部長、あの――」
「俺に関わるなと言っているんだ」
口調には棘まで含んでいた。
意表を突いて見せつけられた冷やかな態度に、私の手が震えだす。
なにか始まることを予感させた金曜と土曜の夜のできごとが、粉々に砕け散っていく。
近づけたと思ったのは私の思い込みで、部長の気持ちにはかすりもしなかったのだ。
私の目の前にいる部長に、あのときの優しい視線、穏やかな態度は微塵もなく、それが勘違いだったと、錯覚だったと理解するには十分だった。
近づくほどに辛くなる。
知れば知るほど、悲しくなる。
とどめを刺すようにもう一度私を鋭く見据えると、部長は足早に去っていってしまった。