鬼部長に溺愛されてます
ずっとふたりだけだったし、尾行されたとも思えなかった。
あのとき、私たちのほかに誰か近くにいたとは考えられない。
「……あ」
そこでひとつだけ思い当たることがあった。
でも……まさか、そんなことはない。
「なに? なにか思い出したの?」
誠吾とミオリがいっせいに身を乗りだす。
「違うとは思うんだけど……。人事部の中谷マネジャーが私と同じマンションに住んでいるらしく、あの夜、姿を見かけたの」
そのときの様子を簡単に説明すると、ミオリは「それだよ! それ!」と興奮したように私を指差した。なにか閃いたかのように大きな瞳をさらに見開く。
でも、あのときは目撃されたとは言い難い。
「中谷マネジャー、人事部長の椅子を密かに狙ってるって聞いたことがあるの。それにね、確か一年くらい前に関連会社に出向させられた大島さんって中谷さんの彼女だよ」
「マジかよ」