鬼部長に溺愛されてます

その目は、どうせできっこないと言っていた。嘲笑うように口元が歪む。

悔しかった。
そんなことを言われっぱなしになっていることも、部長を守ることができないでいる自分も。

私が脱いだからと言って、中谷マネジャーが本当に約束を守るとは断言できない。
でも、私の部屋にいたことが発端なら、その後始末は私がしなくちゃいけない。
ばかばかしいことは承知の上だけど、なによりも部長を守りたい一心だった。

自己犠牲なんていう綺麗ごとじゃない。
今この場で脱ぐことは私のためなのだ。
訂正できなかったら、部長か私のどちらかが飛ばされてしまうことは必至だから。
想いが通じないからと言って、離れ離れになるのは耐えられない。遠くからでもいい、部長を見つめていたいから。

バッグを床に置き、意を決してシャツのボタンを外していく。
自分でやっておきながら、震える指先はどうにも止まらなかった。

音のない部屋に中谷マネジャーの執拗な視線だけが存在しているようだった。
溢れだす嫌悪感に抗おうと目を閉じてみれば、暗闇に閉ざされてしまい逆に神経が研ぎ澄まされてしまう。

でも……ここで止めるわけにはいかない。
一度思ったことは変えられない性分を恨めしく思った。

最後のひとつを外し終えたシャツが、床の上にハラリと落ちる。

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