鬼部長に溺愛されてます
部下の立場だというのに、桐島部長の威厳をものともしない言い様だった。
これ以上話していても無駄だととったのか、部長は振り返り私の腕を掴んだ。
「水原、行くぞ。立てるか?」
「桐島さん、悪いですが、部長の椅子は俺がもらいますよ」
マネジャーが高らかに宣言する。
彼の卑屈な笑い声は、耳を塞ぎたくなるほどの不愉快な余韻を私に残した。
力が抜けてしまった私を支えながら、部長が部屋へと送り届けてくれた。
玄関先でうつむいたまま、私の肩は未だに震えが止まらない。
彼のさっきの笑い声が耳について離れない。
結局、私にはなにもできなくて、部長に迷惑をかけるばかりだ。
「どうしてあんなことをした? 俺にかまうなと言ったはずだ」
また、突き放すような言い方だ。
冷やかに見下ろされて、視線を逸らすことしかできない。
でも、部長を守るつもりが逆に助けられてしまったのだから、怒りは当然のこと。
「ごめんなさい……」
これじゃ、部長に呆れられておしまいだ。
想いが通じるなんて、どう足掻いても無理な話。ほんの少しでも期待した私は、救いようのない女だ。
「とにかく、このことは俺に任せておくんだ。いいな?」
最後まで刺すような鋭い視線に、私はそれ以上なにも言えなかった。