鬼部長に溺愛されてます
「麻耶、部長のところに行ってあげなくていいの?」
「……え?」
「今ならまだ間に合うんじゃない?」
突然の異動、しかも今日付けとなれば、まだマンションにいるかもしれない。
「でも……」
ここで私が行っても、事態はなにも変わらない。それに、原因となった私の顔なんてもう見たくもないかもしれない。
マイナス要素の気持ちにあっという間に支配されていく。
部長に拒絶されるのが怖かった。
なにをしに来たと冷たい目で睨まれたら、立ち直ることさえできなくなってしまう。
「これ、部長の自宅の住所だから」
そんな私に、ミオリの手から一枚の紙切れを手渡された。グズグズする私の背中をミオリの両手が押しだす。
「もう麻耶! この前、居酒屋から飛びだしていった元気はどうしたの? 今行かなかったら後悔するよ? 二度と会えなくなって私に泣きついてきたって知らないんだから」
応接室の扉を開け、ミオリは私を強引に外へと連れだす。ミオリの言葉は半分脅しにも聞こえた。
でも、いきづまっている暇はない。
彼女らしい励まし方に、私はようやく足を前へと踏み出せた。