君とエチュード
TAKE1
────4月
「四ツ谷ー、四ツ谷ー」
東京都新宿区。JR駅の不快なベルの音が鳴り響く中、キャリーケースを引き、スマートフォンの地図アプリを開きながら歩く1人の男子大学生。一見まだ東京の街に馴染めてない様子のこの男が、物語の主人公だったりする。
「田舎もんで何が悪い。」
この無愛想な主人公の名前は平沢健人。この春から大学生になると同時に上京してきた。
「ここ・・・か。」
そして、最寄り駅から徒歩13分。地図アプリを頼りに辿り着いたここが、新しい住まいである。
「お邪魔しまーす。・・・誰もいないのか?」
緊張した様子で入り口のドアを開くと、廊下は無く、広めのリビングが広がっていた。カウンターキッチンになっていて、カウンターには長椅子が3脚。キッチンの正面には4人がけのテーブルがあり、その奥には大きめのテレビ。ワンルームのボロアパートでは無いことは確かだ。
部屋の隅にある螺旋階段から小太りの男が降りてくる。
「君は?新しい入居者?」
「今日からお世話になります平沢です。」
「あー!君が平沢君ね!大家さんから聞いてるよ!僕は201号室の加藤。この家まだ男子は僕しかいないから、家の事で何か困ったら聞いてね。」
「ありがとうございます。」
「あ、大家さんから聞いてると思うけど、3階は女子部屋だけで男子立ち入り禁止だから。それじゃ、ね。」
そう。健人の東京の新居はルームシェアの所謂シェアハウス。建物名は『スイートメリーハウス』。シェアハウスと言っても1階のリビング、キッチン等が共有なだけで、各自鍵付きの自分の部屋がある。男子エリアの2階と女子エリアの3階にはそれぞれトイレ、シャワールームがあり、居住者の部屋が4部屋ずつ。最大8人のシェアハウスだ。
螺旋階段を登ると、1本の廊下があり、部屋が何部屋かある。
「204は・・・ここか。」
暗証番号で鍵を開けると5.5畳のスペースがあり、エアコン、ベッド、小さめのテレビが既に置いてある。1人で生活するには充分な広さと設備だ。
春は出会いと別れの季節とはよく言ったもので、日本では入学式や卒業式、それから入社式は4月に行われる訳だから、当然出会いと別れも多くなる。
ここからは、夢も将来も決まっていない。それでも東京という街に、何か期待を求め、幾つかの出会い、それから別れを経験して成長していく若者達のお話し。
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