【完】姐さん!!
「付き合わねえよ?
ずっと前から、なるみは好きな男いるし」
わたしの肩に腕を乗せた衣沙が、「な?」と顔を覗き込んで同意を求めてくる。
「そうね」と小さく返せば何が面白かったのか、衣沙はやわらかい髪を揺らして笑った。
「え、姐さんって衣沙さんのこと好きじゃないんですか?」
「どういう思考回路してんのよ……」
薄くくちびるを噛んで、衣沙を見上げる。
長年一緒にいるわたしから見ても綺麗な男だとは思うけど、少なからずまわりが囃し立ててくるような関係ではなかった。
「それに……
こんなこと言ってるし散々遊んでるけど、衣沙にだってちゃんと本命の子はいるから」
ふっと。
ため息をついて暴露したわたしに、衣沙はなんとも言えないような顔をしてきたけど。別に嘘はついていない。衣沙には、ちゃんと本命の子がいる。
「えええ!?
衣沙さんの本命って姐さんじゃないんですか!?」
「さあ。
俺はそういう話好きじゃねえから、聞きたいならぜんぶ知ってるなるみから教えてもらえば?」
教えてもらえないだろうけど。
そう付け加えて、衣沙は興味をなくしたようにほぼわたしが使っている自分の部屋へ向かおうとする。
そして、ふと足を止めて。
「ああ、そうだ」
わざとらしく何かを思い出したような口調で、振り返る。
切れ長の瞳が細められたけれど、淡い色合いの双眸は誰のことも捉えてはいなかった。
「別に付き合ってねえけど。
なるみは俺のだから、手ぇ出すなよ」