【完】姐さん!!
「ねえみて、かわいい」
「ん、そうだねえ」
「なんでこんなに可愛く見えるんだろう……」
有名なうちのひとつらしい、ファンサービス旺盛なゴマフアザラシ。
何かと思えば円柱型の水槽に顔を出してくれて、ちゃんと自分が見られていることをわかっているみたいに、その場でくるくる回転したり、じっとこっちを見てきたり。
なるほど、ファンサービス旺盛ってこのことか。
じいっと見つめられたら、あまりにも可愛くて頬が緩んでしまう。
「このアザラシってオスだっけ」
「うん、そうみたいよ。
さっきそこに名前書いてたと思うけど、」
それがどうしたの?と。
顔を上げたら衣沙の顔が予想以上に近い場所にあって、一瞬どきりとする。
しかも薄暗い場所を抜けたところにこの円柱型の水槽があるせいで、衣沙を見る女の人たちの色めき立ちようがすごい。
……水族館にきてるんだから、衣沙じゃなくて水槽の中を見てくれればいいのに。
「いや、なんかなるみのことじっと見てるから。
なるちゃんついにアザラシにまでモテるのかと」
「そんなこと考えて見てたんだ……」
「あと、アザラシよりも、
アザラシにはしゃぐなるみがかわいいなって」
「っ……」
またこの人は、さらっとそういうことを言う。
衣沙こそ、わたしのことをそんなに夢中にさせてどうしたいんだろうか。