【完】姐さん!!
「あ。……俺といちゃいちゃしてるから、
アザラシが拗ねて向こう向いちゃった」
「アザラシさんの心情を勝手に改変しないの」
言いながら顔を上げると、たしかにアザラシは向こうを向いてしまっていた。
……ただ単にそっちにお客さんが来たから、ファンサービスしてるだけだと思うけど。
「ほら、ほかの男に目移りしない」
「……ほかの男って」
「オスだって言ってたじゃん」
言ったけど。たしかに言ったけど。
わたしのことを一体なんだと思ってるんだと文句を言おうとしたのに、予想外に甘い笑みをつくってわたしを見るから、呑み込むしかなかった。
「いちいち言動が甘くて困る……」
「いいじゃん。
……どうせ、なるみしか聞いてないよ」
「………」
たしかに、そうだ。
いくらこっちを見てる女の人たちがいても、わたしたちの会話まで聞いているわけじゃない。
衣沙がくれる甘い言葉は、わたしだけのもの。
ふとしたときのスキンシップを人に見られるのは恥ずかしいけど、わたしが過剰に反応するから衣沙が面白がっていじめてくるだけで。
「あ、くらげ」
しれっとしていたら、誰も気にしない。
せめて女の人たちの前では、「彼女なんだから大事にされていて当たり前」って顔をするぐらいの余裕があればいい。