【完】姐さん!!
「……綺麗だろうな」
「………」
……ああ、もう。その顔はずるい。
そんな優しい顔、一目見ただけで満月ちゃんのことがどうしようもなく好きだってわかる。
「衣那くんもきっとかっこいいよ」
「え? ああ……うん。想像つく」
無意識のうちに身を寄せるように近くなっていた距離を、ゆっくりと離す衣沙。
ネクターに口をつける彼の適当な返事を聞いて、ほんのすこし疑問を感じた。
じっと見つめてみれば、彼は居心地悪そうに目をそらす。
それから、悩むようにして、衣沙が口を開いた。
「……兄貴と、そうなりたかった?」
「え?」
「好きじゃん、兄貴のこと」
そうなりたかった?っていうのは、つまり。
わたしが衣那くんと結婚したかったか、ってこと?
「……普通は嫌だろ?
自分の好きな人が結婚するってなったら」
普通は、ね。
……そもそもわたしが衣那くんを好きだったのはとっくに過去の話で、いまはもう違う。
でも満月ちゃんを好きな衣沙に対してそう言ったってどうしようもないし。
「そうね」と感情のこもらない薄っぺらい返事を返したせいか、衣沙は訝るように目を細めた。